プライマリ・ケアの楽しさは、「プレイフル・シンキング(Playful thinking)」という真剣でワクワクする心構えがとてもよく表現してくれています。そもそもプライマリ・ケアが楽しいのか半信半疑な方は、「楽しそう」と思えるヒントに出会えます。もうすでにプライマリ・ケアを楽しんでいる方は、楽しさを再確認しつつ、「プライマリ・ケアは楽しい」をシェアしてゆきましょう。
- プライマリ・ケアの楽しさは、「プレイフル・シンキング」が絶妙に表現している
- プレイフル・シンキングとは、真剣でワクワク
- プレイフルに働く5つのポイント
- プライマリ・ケアとプレイフルな5つのポイント
- 【プライマリ・ケア エキスパートVer.】プレイフルな5つのポイント
プライマリ・ケアの楽しさは、「プレイフル・シンキング」が絶妙に表現している
私は、地域の診療所で医学生の地域医療実習/研修の指導医をしています。
プライマリ・ケアの現場で医学生・研修医の成長に関われることにやりがいを感じています。
医学生・研修医たちが学び、成長するのに加えて、「プライマリ・ケアの楽しさ、面白さ」を感じてもらえるよう工夫を重ねています。
楽しさ、面白さを伝えるには、私たち家庭医が楽しんでいる姿に触れてもらうことが何よりでしょう。
とはいえ、私の根っこにある楽しさまで伝えるとなると、ぜひ食事でも囲んでじっくり語らいたいところです。
ですが、そうもいかない昨今ですね・・・。
「この楽しさを端的に言い表せないだろうか」
そんな時に出会ったのが「プレイフル・シンキング」という一冊の本です。
私が感じるプライマリ・ケアを実践することの楽しさを、この本が絶妙に表現してくれていると感じました!
そこで、今回は「プレイフル・シンキング」を紹介しながら、プライマリ・ケアの楽しさを伝えたいと思います。
プレイフル・シンキングとは、真剣でワクワク
プレイフル・シンキングは、学習デザインの先駆者である上田信行さんが提唱する概念です。
playful =「遊び心のある」は医療現場には似つかわしくない言葉で、不謹慎だと誤解されそうですね。
しかし、単純に「遊び心」ということではなく、上田さんは次のような意味合いで「プレイフル」という言葉を使っています。
プレイフルとは、本気で物事に取り組んでいるときのワクワクドキドキする心の状態をいう。どんな状況であっても、自分とその場にいるヒトやモノやコトを最大限に活かして、新しい価値(意味)を創り出そうとする姿勢とでも言ったらいいだろうか。
目の前のことに対して知的好奇心や興味のスイッチが入って、夢中になってチャレンジしている状態に近い。
~中略~
誰かを喜ばせたい、感動させたいというゴールがあるから、困難を乗り越えていく力となるポジティブなエネルギー。
つまり、プレイフル・シンキングとは、「真剣で」 「わくわくした」 状態であるための心構えという訳です。
このプレイフル・シンキングが、 そっくりそのままプライマリ・ケアの楽しさだと私は考えます。
プレイフルに働く5つのポイント
プレイフルに働くとはどういうことなのか簡単にまとめておこう。
① プレイフルとは、真剣にむき合いやってみること
② プレイフルとは、柔軟に変わってゆくこと
③ プレイフルとは、メタ認知すること
④ プレイフルとは、Howの精神で共創すること
⑤ プレイフルとは、実現できそうな予感にワクワクすること
この5つのポイントが意味することをまとめるとおおよそこんな感じです。
この5つのポイントは次の3つの特徴を持っています。
それぞれが重なり合い、影響し合う
この5つは、それぞれが重なり合い、影響し合う部分があります。一度この5つを眺めるとどこかが欠けているという状態は不自然で、真剣にワクワクするにはどの要素も大切に感じます。どれか1つが高まると、自ずと他のところも共鳴して高まってゆく作用もあるでしょう。
たとえば、
「ものごとに真剣に取り組む」
↓
「より良くするには、柔軟に成長し、周囲と協力する」
↓
「仲間ができるとさらなる高みが見えて、ワクワクしてくる」
といった感じです。
自分がプレイフルじゃなくても大丈夫
この5つのポイントを自分自身がいつも全てを兼ね備えている必要はないということです。
真面目すぎる人や控えめな人でも、プレイフルな環境や状況に身を置くこと、あるいは、プレイフルな一面を持つ誰かと一緒にいることでプレイフル・シンキングができれば良いのです。
プレイフルな経験があなたをプレイフルにしてゆく
プレイフルな環境や状況を経験してゆく中で、プレイフル・シンキングが身についてゆきます。
次で書くように、プライマリ・ケアの現場はプレイフルな要素が盛りだくさんです。
プライマリ・ケアに身を置くとプレイフル・シンキングが高まり、プレイフル・シンキングが高まるとプライマリ・ケアがより楽しくなる。そんな相互作用を感じています。
プライマリ・ケアとプレイフルな5つのポイント
では、プライマリ・ケアのプレイフルなポイントを見てゆきましょう。
①真剣さ、②柔軟さ、③メタ認知、④共創、⑤ワクワクのそれぞれについて2~3個ずつ主だったものを取り上げてゆきます。
真剣さ -私の専門は、あなたです-
「私の専門は、あなたです。(I’m your specialist in life. *1) 」
ちょっと気恥ずかしいセリフですが、プライマリ・ケアの姿勢をよく表している言葉です。患者さんを全人的に理解し、関わり続けようと心がけます。
「人生の伴走者」と例えることもあります。
それだけ責任感を持って真剣にケアする。でも、この「真剣さ」だけでは重圧を感じてしまいます。だからこそ、他のポイントも合わせてプレイフルであることは大切です。
柔軟さ -ケアの最初の窓口として-
プライマリ・ケアは、ケアの最初の窓口として地域のあらゆる方に出会います。立場や考え方が自分とは全く違う人ももちろんいます。そこで大切なことは、まずどんな人も受け入れようとする柔軟な心です。
また、ケアとは問題や困りごとに向き合うものです。それらは希望や解決策が簡単に見つかるものばかりではありません。それでも私たちは苦しい状況にわずかな光を探します。悲しみを悲しみのまま、わからないものをわからないまま受け入れてゆくこともしばしばです。ですので、フニャフニャと柔らかいだけでなく、粘り強さのある柔らかさが必要になります。
メタ認知 -近いからこそ、離れて見る-
上に書いた通り、なかなか解決できない複雑な問題を相談されることがあります。そんなときは、「問題」にばかり着目せずに一歩後ろに引いて「状況」を見つめる姿勢が大事です。これがメタ認知です。俯瞰するともいいます。
体の症状についての相談のようでも、よくよく話を聞くと心理的なストレスが引き金になっており、そのストレスの原因が職場の人間関係だという場合があります。このように体と心と社会の関係性から問題を探ってゆくことで問題の本質が見えてきます。
目の前の患者さんに集中力を高めてゆくと、少し幽体離脱したように視野が広がります。メタ認知ができると、問題に直面する窮屈さが和らぎ、心と頭が滑らかになる心地よさがあります。このメタ認知は、ケアをする人自身の調子を整え、成長することにも役立っています。
共創 -力を合わせて乗り越える-
一緒に創り上げる、課題を乗り越えることです。誰かと知恵や力を合わせることですごい成果や予想もしなかったものが生み出されます。1+1=2だけでなく、3や10になる可能性があります。
逆に、他人とは衝突したり、お互い足を引っ張り合ってしまうこともありますね。1+1は1.5や-2にもなってしまいます。
効果的に楽しく協力するために特に大切なことは、①お互いに認め合うこと、②ゴールを共有することです。問題を乗り越えるために、患者さんと医療者で良い関係をつくり、プライマリ・ケアに関わる職種同士がチームとして取り組むことがプライマリ・ケアの醍醐味の1つです。
ワクワク -目指すはウェルビーイング-
ウェルビーイング(well being)とは、心身が健康よりも広い意味合いで「調子がいい」ことです。その人にとって生活や人生が充実していることや、家族や地域も幸福かどうかも私たちの関心ごとです。
ウェルビーイングは、すべてにおいて「良い状態」を目指すという意味ではありません。
たとえ病気で弱っていても、イキイキした暮らしを保つことやふとした幸せを発見することができます。喜ぶ顔や穏やかな時間のために頑張ることは何よりワクワクします。
また、ん個人や地域のウェルビーイングを願う気持ちは、その人との良好なコミュニケーションや地域への愛着が土台になっています。人との出会いや関わりそのものに、ワクワクする日々です。
【プライマリ・ケア エキスパートVer.】プレイフルな5つのポイント
上の項では、家庭医療学やプライマリ・ケアでよく用いられる枠組みや用語の使用を極力控えました。
ですので、プライマリ・ケアに精通する方には回りくどい内容であったと思います。
そこで、プライマリ・ケアのプレイフルな5つのポイント プライマリ・ケア エキスパートVer.も示しておきます。
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プライマリ・ケアを実践する楽しさを、プレイフル・シンキングになぞらえて書きました。
家庭医/総合診療医に限らず、プライマリ・ケアに関わる多くの職種が真剣でワクワクする経験をすることができるでしょう。
その他にも学問的な魅力や各論の面白さについては、また別の機会に触れたいと思います。
*1:英国の家庭医紹介ムービー " I’m your specialist in life. "